鉄仮面の鍵は奪った。
さあ、急いでシャトレに行かなくては。国王陛下が処刑されてしまう!
私はセーヌ川沿いに馬を走らせた。
ん、何だあれは?
小さなぼろぼろの小舟に裸の男が二人。手を振っている。
「お〜い!そこのお方、助けてくだされ〜!」
あの光る頭は…どうも坊さんのようだ。着物もつけずにいったい何をやっているのだ。まったく、こっちは急いでいるというのに。しかし放って置くわけにもいかないか。
ロープを渡し、小舟を寄せ二人を助けた。
「ああ、ありがとうございます。助かりました。」
「一体、どうなさったのです。」
「私はフェルナンドと申す者です。シャトレの牢に向かう途中、迎えの者たちにこの舟に案内されたのですが、渡し板がはずれて川に落ちてしまいました。服を乾かすまで暖まるように言われ、舟に乗ったのですがなぜだか舟が勝手に川を下りはじめてしまったわけでして…」
(シャトレだって!?じゃあ、この坊さんは鉄仮面処刑に呼ばれた懺悔聴聞僧か?)
「…その迎えの者たちはどうしたのです?」
「はあ、それが気付いたときにはもう姿がみえませんで…」
「一体、どんな者たちです?」
「はあ、一人は大男で、一人はまだとても若い男でした。この小舟を漕いでいたのはまだ小さな子供でした。」
(なんだ、ポルトスとダルタニャンとジャンに違いない。そういえばこのボロい小舟はジャンのだな。懺悔聴聞僧になりすましてシャトレに潜入したのか…。しかし、坊さんをこんな目に遭わせるとはいささか不謹慎だな。)
「ともかく、そのままでは風邪を引かれてしまいます。馬車を調達して来ますので、いったんお帰りになられるのがよいかと思いますが。」
「はあ、ありがとうございます。この格好のままシャトレに行くわけにもいきませんからな。」
何度も礼を述べる二人に別れを告げ、シャトレへ急ぐ。
…っと、アレ?ここは何処だ?
シャトレはどっちだ?
なんて事だ。私は道に迷ってしまったらしい。国王陛下の銃士ともあろう者が情けない。
とりあえず、セーヌ、セーヌ川を捜そう。
「すみません、セーヌはどちらの方向ですか?」
「は? あんた、パリは初めてかね?」
(う、とても6年も住んでいるとは言えない…)
「あっちだよ。」
「…ありがとう(赤面)」
よし。セーヌにでたぞ。あとはこれに沿って行けばいいはずだ。
ようやくシャトレがみえてきたときにはもう10時を過ぎてしまっていた。
しかし、正門には見張りの者がいない。どうしたんだ?
近づいてみると中がなんだか騒がしい。
さてはあいつらが一暴れしているな?
私もはやく行かなくては。なんといっても鉄仮面が国王陛下であることを証明できるのは私しかいないのだから!
私は勢いよく中庭に飛び出していった。