ブルッセルの章についての過去ログ by銃士広場

  • 皆様、ご存知でしたか?ダルタニャン物語第二部の邦訳から、原文の1章分が抜けていた事を。
  • 名付けてブルッセルの章抜けてるぞー!事件。(名付けなくてもよい)
  • この衝撃の事実が、K.Nakayamaさまによって銃士広場にて判明したのであります。
  • 以下、「銃士広場」での、ブルッセルの章関連の過去ログの抜粋です。
『二十年後』再読しています
投稿者:K.Nakayama 02/01/11 Fri 13:00:01 No: 205
  • 最近、私の通う大学の図書館にハードカバー版のダルタニャン物語が
  • 初版で揃っていることに気付きました。どうやら一年か二年前に
  • 大量の全集類の寄贈があったときに一緒に入っていたようなのです。
  • 全巻揃いで目にするのは初めてだったので何巻かめくってみたところ、
  • 月報もちゃんと揃っていて、1巻には訳の訂正表がついていました。
  • 鈴木力衛先生の訳へのこだわりが偲ばれます。
  • その発見に触発されて、ここ3日ほど『二十年後』編を少しずつ
  • 読み返していますが、やはり何度読んでもおもしろいです。
  • きちんと読み返すのは久しぶりなので、脇役の豪華さに
  • あらためて目を瞠っています。とりわけ後のラ・ロシュフーコー、
  • マルシヤック公が物語にずいぶん登場していたのに、今頃気付きました。
  • 鈴木先生の訳に関して今回気付いたことを。
  • 章のタイトルを眺めていると訳のうまさ、洒落っ気に
  • にやりとしてしまう所があります。翻訳にはやはり
  • 日本語もできないとだめだということをあらためて感じました。
  • それと『二十年後』からは1章、原文からカットされている
  • 部分があるのに気付きました。参事官のブルッセルをダルタニャンが
  • 馬で跳ね飛ばしたエピソードに関してです。
  • 話の本筋と直接かかわりがないのでカットされたのかと思いますが
  • 『ブラジュロンヌ子爵』編でもそういう部分はあるんでしょうか?
ブルッセルのエピソード
投稿者:COASA 02/01/15 Tue 11:24:20 No: 212
  • K.Nakayamaさまの書き込みを読んでいて思い出したのですが、講談社文庫4巻の16話目でブルッセルの息子ルーヴィエールが登場していますが、ルーヴィエールが登場したのはこの場面が初めてのはず(だと思うのですが…)なのに“いつぞやの事件で読者諸君にもお馴染みの”という表現がされていて「あれ?」と思った記憶がありました。しかも“青年はすっかり元気を回復し”と、何か一波乱あったような表現も。
  • ひょっとして1章省かれているのでしょうか?
  • 仏語の原作持ってるんですが、実家に置いてあって確かめられません…。
レス
投稿者:なるせまやこ@「銃士広場」管理人 02/01/16 Wed 00:22:01 No: 213
  • 「ダル物」と同じく17世紀のフランスを舞台にした大河小説「アンジェリク」は全訳されているものの、英語版をベースに翻訳したためか、人物名が英語読みになっていたり、カットされた章が何箇所もあるなど、不完全な部分があります。
  • それに比べると「ダル物」の鈴木力衛先生の翻訳は完成度が高いと思っていたので、K.NakayamaさまやCOASAさまの書き込みを読むまで、原文からカットされた箇所がある(可能性)とは思いもよりませんでした。
  • わたしは今、原文と翻訳を照らし合わせている時間がないので、お時間のある方はチャレンジしてみてくださいませ。
  • 下に原文(フランス語)が読めるサイトのURLを挙げておきます。
  • 「三銃士」http://abu.cnam.fr/cgi-bin/go?mousque1
  • 「二十年後」http://gallica.bnf.fr/scripts/ConsultationTout.exe?O=101438&T=2
  • (「ブラジュロンヌ子爵」の原文(もちろん仏語)が読めるサイト、どなたかご存じありませんか?)
  • (略)
ブルッセルに関して(1)(かなり長文です、すみません)
投稿者:K.Nakayama 02/01/17 Thu 23:35:32 No: 215
  • こんにちは。前回は中途半端な書き込みで失礼しました。
  • ブルッセルのエピソードについて、もう少し詳細をご報告いたします。
  • かなり長くなると思いますがご容赦ください。
  • (フランス語原文をあげる場合はアクサンを全て省略します。)
  • 『二十年後』原文では、28章はRencontreという題がついていて、
  • これがダルタニャン物語第3巻の28章、「丁丁発止」に当たります。
  • で、ダルタニャン物語の29章は「旧友会見のとき迫る」となっていまして、
  • こちらは原文では30章、Quatre anciens amis s'appretent a se revoir、
  • 鈴木先生のおつけになったタイトルはほぼ直訳です。
  • 原文の29章はLe bonhomme Broussel(ここのbonhommeのニュアンスは
  • 難しいです。ブルッセル親父というのも変だし、お人好しブルッセルも
  • 何か違うし、ブルッセル氏くらいの意味だと思うのですが)、
  • その冒頭を私の拙い訳でお目にかけますと、
  • 「しかしそのときツキがないと感じていたマザラン枢機卿には
  • 運の悪いことに、ブルッセル氏は踏み潰されてはいなかったのである。」
  • 私の理解した範囲でこの章を要約すると(誤読がありましたらごめんなさい)、
  • ダルタニャンに跳ね飛ばされて倒れたブルッセルはその後
  • 自分の家に運び込まれ、その周囲で民衆が大騒ぎをしています。
  • フリッケが医者を呼びにやられ、後にブルッセルに続いて逮捕されてしまう
  • ブランメニルと、ブルッセルの息子が入ってきます。
  • それに続いてレス大司教補、ロングヴィル公爵、コンティ大公という
  • フロンド派のお偉方が次々に自分の医者を連れてブルッセルを見舞い、
  • ブルッセルの家で医者が3人鉢合わせする、というような話です。
  • ブルッセルの事故による負傷を聞きつけて、3人のお偉方がその事件を
  • 人気取りのために利用しようとする姿が描かれています。
  • 前回書き込んだときは、抜かれても違和感はそれほどないように
  • 思っていましたが、COASAさまの書き込みを拝見して、
  • もう一度読み直してみると、この場面は後でブルッセルの逮捕が
  • 暴動につながっていく伏線になっているのですね。
  • それにお偉方の身勝手さが皮肉をこめて描かれています。
  • これはダルタニャンたちがアンヌ大后やマザランに
  • 恩知らずな扱いを受ける場面と対を成しているのではないかと思いますし、
  • ブルッセルのような平民や民衆と、大貴族たちとの、
  • フロンド派内部の差がよく描かれていると思います。
  • 省略されてしまったのはやはり残念な気がします。
  • ところでこの場面でよくわからないことがいくつかあります。
  • まず、ブルッセルの息子の名前です。私の読んだ限りではこの場面では
  • 息子の名前はジャックとしかでてこないのです。
  • ルーヴィエールというのは一体どこから出てきたんでしょうか?
  • それとこれも名前に関してですが、ブルッセルの家にいる老いた召使い女は
  • この場面ではジェルヴェーズという名前です。
  • ところがこの後ブルッセル逮捕の場面で出てくるときはこの名前の
  • お婆さんはいなくて、ナネット婆さんとなっています。
  • ジェルヴェーズの愛称が何かわからないのですが
  • ナネットとはならない気がします。こちらも謎です。
ブルッセルに関して(2)(かなり長文です、すみません)
投稿者:K.Nakayama 02/01/17 Thu 23:33:41 No: 214
  • COASAさまの疑問に関してですが。
  • ダルタニャン物語では第4巻の16章、原文では47章の問題の箇所は、
  • こんなことを私のような不勉強なものが言っていいのかと思いますが……
  • 鈴木先生の誤訳ではないかと思われます。
  • Broussel etait assis a table avec sa famille,
  • ayant devant lui sa femme, a ses cotes ses deux filles,
  • et au bout de la table son fils, Louvieres, que nous avons vu deja
  • apparaitre lors de l'accident arrive au conseiller, accident dont
  • au reste il etait parfaitement remis. Le bonhomme,
  • revenu en pleine sante, goutait donc les beaux fruits
  • que lui avait envoyes madame de Longueville.
  • ここをほぼ直訳しますと
  • 「ブルッセルは家族と一緒に食卓についていた。
  • 向かいには妻、側らに二人の娘、そしてテーブルの端には
  • 息子のルーヴィエールがいる。この息子については参事官(ブルッセル)が
  • 例の事故に遭ったときに登場するのを既に見たが、参事官は例の事故から
  • 完全に回復していた。この人物は、すっかりもとの体になって、
  • ロングヴィル夫人が彼に送ってくれたおいしい果物を味わっていたのである。」
  • l'accidentは普通に読めばダルタニャンがブルッセルを
  • はねたあの事故のことですし、実際arrive au conseillerとあるので
  • 「参事官の遭遇した」事故だとわかります。関係代名詞dontの後のilですが、
  • これはこの部分だけ見ても事故に遭ったのは参事官だと
  • 書いてあるのですからブルッセルを指すと考えるのが普通でしょう。
  • 次の文章のLe bonhommeも、原文の29章のタイトルを踏まえますと
  • ブルッセルのことだととるほうが自然だと思いますし、
  • 実際他の部分でもブルッセルの名前の前につけられています。
  • それに私が「彼に送ってくれた」と訳した「彼」はルーヴィエールよりは
  • ブルッセルである確率の方が高いでしょうから、
  • 二番目の文の主語がブルッセルだと考える根拠になるでしょう。
  • ルーヴィエールと29章のジャックが同一人物と考えますと、
  • 上の訳だときちんと辻褄が合うと思います(訳のまずさは置くとして)。
  • 私もなるせさまと同じように、鈴木先生の訳にはかなり
  • 信頼を寄せていましたので、今回わずかながら原文と対照してみて
  • 非常に驚きと戸惑いを感じています。物語全体の流れの中では
  • 大した部分ではないのかも知れませんが……
  • でもやはり鈴木先生の訳文、とりわけ会話の見事さは
  • 素晴らしいと思います。章題に関しても、なるせさまが挙げられている
  • 章もお見事ですし、「窮地のダルタニャン、旧知に救われる」
  • なんていうのが私はとても気に入っています。
  • 私もダルタニャン物語の中で『二十年後』編が一番好きです。
  • 『三銃士』から続いて登場する人物たちがたくさんいるし
  • (その中の多くが死んでしまうのが残念です)、
  • 中年になってそれなりの野心や計算をするようになって、
  • それぞれ地位や財産を手に入れて、一旦は敵味方に
  • わかれてしまった4人が、再び助け合い大活躍する。
  • 若くてお互いの友情の他に頼れるものもなかった時代とは違うだけに、
  • いっそう4人の友情が価値あるものに感じられます。
ブルッセルの章について
投稿者:COASA 02/01/18 Fri 21:47:03 No: 216
  • 私も早速まやこさまが挙げてくださったサイトに行って、ブルッセルの章を取得してきました。しかしあまりにも語力が足りず、訳を断念したところでした(汗)。
  • この章にざっと目を通したところルーヴィエールの名前が見当たらず、またも「?」でしたが、K.Nakayamaさまのご意見を読んで納得しました。
  • 4巻の16章を初めて読んだ時、ダルタニャンにはねられたのはブルッセルではなく、じつはルーヴィエールだったのか?とまで考えがおよんでしまいましたが、なるほど、鈴木先生の誤訳だったと考えるとすんなり受け入れられますよね。デュマも鈴木先生も人間ですから、間違いや勘違いの一つや二つあってもおかしくないですしね。…なんて訳に断念した人間の言う事でもないですが。
  • でも私もK.Nakayamaさまと同じく鈴木先生の訳は大好きです。デュマの表現が言語の違いを超えて直に私たちの胸に伝わってくるようで、まさにデュマそのものの躍動感に溢れていて見事ですよね。鈴木先生の訳じゃなかったら、ここまでダルタニャン物語に心奪われる事も無かったかも知れません。
  • ジャックやジェルヴェーズも謎ですね。私ももう一度原文とにらめっこしてみます。
再びブルッセル
投稿者:COASA 02/01/21 Mon 14:15:30 No: 220
  • ブルッセルの章について(この話題ばかりですみません)ご報告します。
  • 私が持っているVingt ans apre`s(二十年後)の原文の本は、Gallimard(ガリマール)社のfolioというものですが、この本にはブルッセルの章が無かったんです。
  • 鈴木先生もこの本、または同じようにもともとこの章が省略されたものを元に訳されたのかも知れませんね。鈴木先生がもしブルッセルの章を読んでいたのなら、4巻の16章での、le bonhommeの誤訳もありえないと思いますし。しかし、鈴木先生の意図で省略されたものではないとわかって、私としては少し嬉しく思っています。
レス
投稿者:なるせまやこ@「銃士広場」管理人 02/01/22 Tue 00:08:14 No: 223
  • (略)
  • ○「二十年後」の原文について
  • 「二十年後」の原文28〜30章をざっと眺めてみましたが、鈴木先生の訳では見事にブルッセルの章(29章)がカットされているのを実感してしまいました。
  • 実はCOASAさまが指摘された箇所はわたしも少し違和感を感じていたのですが、その理由が今やっとわかりました。
  • K.Nakayamaさま、翻訳ご苦労様でした。(さすが、現役の学生さんですね!)
  • (略)
やっぱり謎は解けません
投稿者:K.Nakayama 02/01/24 Thu 22:51:12 No: 230
  • ブルッセルの章に関して、前回は長々とお邪魔してしまい申し訳ありません。
  • 今回はなるべく手短にいきたいと思いますが……。
  • 原文のLe bonhomme Brousselの章に関して、大学にある版を見てみました。
  • まずガリマールのプレイヤッド叢書版(銃士クラブのHPでいせざきさまも
  • ご紹介されているもの、一般に仏文関係では権威があります)。
  • 問題の章はありません。注にもそれに関する記述はなし、
  • 『ダルタニャン物語』では「ランスの戦勝式」に当たる章の中の、
  • 例の場面にもルーヴィエールという人物の紹介はあるものの、
  • 特に記述なし。前書もざっと見てみましたが関連する部分はありませんでした。
  • 次にクラシックガルニエ版。こちらもプレイヤッド叢書と同じ状況でした。
  • 問題の章はなく、注にも前書にも記述なし。最後に英語版ですが
  • World's Classics版も見てみると、やはり同様でした。
  • こうして見てみるとCOASAさまの考えておられる通り、鈴木先生が
  • 訳に使われた版にはおそらく問題の章がもともとなかったのでしょうね。
  • となると一体、私の手元にあるOmnibusから1998年に出た本や、なるせさまが
  • ご紹介されているHPの問題の章は、どこから出てきたか気になります
  • (このHPの版もクラシックガルニエなのも不思議ですが)。
  • それに、名前の相違はありますが、Le bonhomme Brousselの章があれば、
  • ランスの戦勝式の章でのルーヴィエールの記述は一応筋が通ります。
  • ないとすると、この部分は辻褄が合わなくなり、
  • 何らかの注をつけるべきところではないかと思いますが
  • (プレイヤッド版やガルニエ版では)注もないのがなんとも不思議です。
  • 一体どうなっているのでしょう。プレイヤッド版もガルニエ版も
  • かなり以前の版なので、最近何か新しい発見があったんでしょうか?
  • 以上、また長くなりましたがご報告でした。
お久しぶりです
投稿者:なるせまやこ@「銃士広場」管理人 02/02/02 Sat 23:04:00 No: 247
  • (略)
  • ○K.Nakayamaさま
  • 版によって“Le bonhomme Broussel”があるのとないのがあるんですね。
  • 新しい発見があったかどうかは海外のデュマサイトにお尋ねになってみてはいかがでしょうか?
  • (略)
  • すごいですね。世紀の大発見が、我らが銃士広場で明るみに!
  • それにしても謎だらけです。
  • どなたか詳細をご存知な方はいらっしゃいませんかね?(他力本願)
旨樫いさこさんから情報をいただきました。(2007-08-26)
以下、旨樫さんのコメントです。
ブルッセルの章について、手持ちのペーパーバックとデュマ研究者の英文による解説をつき合わせると、『ル・シェークル』紙での連載と、フランス最初の単行本であるボードリー社版にはブルッセルの章はなかったのに、ベルギーで出版された海賊版単行本と、挿絵の入った最初の単行本(フランス)、イギリス最初の英訳版では入っていたとのこと。
その後の出版においては、連載時や最初の単行本になかった章として省いたり、逆に必要な章として収録している本に分かれます。
ダル物4巻16章との関連も、K.Nakayama 様の解説のとおりです。
ただ、ブルッセルの章での登場人物の名前の違い(ルーヴィエールがジャック、ナネットがジェルヴェーズ)については、注釈は何もありませんでした。